遠交近攻(えんこうきんこう)とは―その意味と現代で活きる「遠くと組み近くを制す戦略」

孫子兵法

目次

  1. 遠交近攻とは何か
  2. 由来と故事
  3. 兵法三十六計における位置づけ
  4. ビジネスや現代社会での応用例
  5. 注意点と使い方の例

1. 遠交近攻とは何か

遠交近攻(えんこうきんこう)は、古代中国の兵法に基づく四字熟語で、「遠くの国と交わり、近くの国を攻める」という意味を持ちます。これは兵法三十六計の第23計にあたり、戦略的に周辺の敵対勢力を孤立させるために、遠方の勢力と手を結ぶという外交・軍事的な戦術です。

地理的に近い敵に集中攻撃をかける際、背後を安心させるために、遠方の勢力とは友好的関係を築いておく。こうすることで、局所的な戦闘に集中でき、全体のリスクを下げつつ支配力を広げていけるという理にかなった方法です。


2. 由来と故事

この戦略は、中国戦国時代に活躍した政治家・范雎(はんしょ)の進言に端を発します。

当時、秦の昭王に仕えていた范雎は、戦乱の時代において最も効果的な外交政策として「遠交近攻」を提案しました。具体的には、地理的に遠くに位置する強国・斉や楚とは同盟を結び、近隣にある韓・魏・趙といった国々を順に攻めるというものです。

この策が功を奏し、秦は周囲の小国を次々と制圧。結果的に中国統一の基礎を築いたとされ、范雎の「遠交近攻」は後の歴史家にも高く評価される戦略となりました。


3. 兵法三十六計における位置づけ

遠交近攻は、三十六計のうち「混戦計」に分類されます。

「混戦計」は、複雑な利害関係や複数の敵が絡み合う状況で効果を発揮する策略群で、単純な攻撃や防御だけでは勝ち切れない局面での“状況打開策”です。

遠交近攻では、相手勢力が多方面に散っている場合に、最もリスクの低いルートから確実に制圧していくことを目指します。周囲の国々との力のバランスを巧みに読み、敵を孤立させることが成功のカギになります。


4. ビジネスや現代社会での応用例

この戦略は、現代のビジネスや人間関係の場面にも応用が可能です。

業界競争における遠交近攻

例えば、小売業界で激しい価格競争が繰り広げられているエリアに本拠を持つ企業が、地元のライバルとは正面衝突を避け、あえて遠方の異業種企業と業務提携を結ぶことで、独自の価値を築く戦略。地元で孤立しがちな顧客を広域から支援する形で巻き取り、地域内の競合との差別化を図れます。

地方自治や地域戦略

市町村間の合併や地域振興でも、隣接する市と対立関係にある場合、遠方の自治体と連携することで政治的・経済的影響力を高める手段として活用されるケースがあります。

職場内での交渉戦略

チーム間の対立や組織内のパワーバランスにおいて、自分の直属の上司や同僚との摩擦があるとき、他部署の管理職や本社と良好な関係を築くことで、間接的に自分の立場を守るという行動も遠交近攻の一種と言えるでしょう。


5. 注意点と使い方の例

遠交近攻は巧妙な戦略である反面、使い方を誤ると信頼関係の破綻を招くリスクがあります。

単なる裏切りと受け取られる可能性

近くの関係者をないがしろにしすぎると、計算高い人物と見なされ、信用を失うことがあります。現代では、協調性や誠実さが評価される傾向にあるため、戦略的意図が透けて見えると人間関係に亀裂が生じかねません。

長期的視野の欠如

遠方との関係も、一時的な目的達成のためだけに構築されたものであれば、いずれ破綻します。提携や協力を求める際には、双方にとっての持続可能性を意識する必要があります。

情報の透明性とバランス

情報の管理も非常に重要です。遠交近攻では多方面に渡る情報を扱うため、情報漏洩や誤解が生じるリスクもあります。意図的に一部の情報を伏せる場合でも、誤解を避ける工夫が求められます。

ぜひ次回もお楽しみに!

アディオス

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